インクルーシブ教育を実践した曽我部昌広先生のお話会

記事・ユミコ
自閉症で重度知的障害のある息子のカズキくんを中学から通常級に通わせていた平田さんと、中学校時代カズキくんを担任していた曽我部先生のことは、インクルーシブ教育を学ぶ勉強会や報道特集で知っていたので、今回お話が伺えるのをとても楽しみにしていました。
私はインクルーシブ教育に対して、憧れと恐れの入り混じった複雑な気持ちがあり、就学に悩んだ末、ダウン症の息子は現在特別支援学校の一年生です。
今回、曽我部先生の話は、どれもこれもぐっとくるものばかりだったのですが、特に印象に残った言葉は
「一瞬関わる特別支援教育のプロより毎日一緒にいる生徒のほうがカズキのことを知っている」というものでした。
曽我部先生はこれまで障害のある子を受け持った経験がありませんでした。最初は戸惑うこともあったと言いますが、やんちゃな生徒が多くいた学校で学んだことは「その行動をしてしまう生徒の背景を知ること」だったそうです。
先生の言うことを全く聞かない生徒の背景は、父親に暴力を振われていたことだった、お金だけが置いてあり食事を用意していない家庭がある、「あんたなんて産まなきゃ良かった」と言われた生徒がいる。
様々な事情と背景を見つめ、その子を想う声かけをしていったことで生徒ががらりと変わっていく様子を見たといいます。その経験がカズキくんを見る上で生きたのだと。
カズキくんとのエピソードが次々と語られるのをじっと聞いていましたが、きっとカズキくんのことだけではなく、他の生徒一人一人のことをよく見ているのだなと感じました。何より、生徒の「良いところ」をよく見て、よく褒めている。子供達に大きな愛情を持って接していることが伝わってきます。
多くの言葉を持たないカズキくんのことをよく見て、みんなの前でよく褒めて、きっとクラス全体が一人一人を認め合うあたたかい雰囲気になっていったんだろうなと想像しました。そしてカズキくんの対応に迷った時「疑問を子供に投げかける、子供に考えさせてみる」ことをしていらしたんだなと。子供を信頼していないとできないことです。生徒たちは、自分の頭で考え、自分たちで答えを出している。時には特別支援のプロのアドバイスよりも生徒の答えの方が、カズキくんを落ち着かせることもあったそうです。生徒の答えを尊重する曽我部先生も素晴らしいと思いました。
障害児とはこういうものです、自閉症とは、知的障害とは、と語られることが多いですが、本当は一人一人違うもの。クラスメイトが「自閉症のカズキくん」としてではなく「クラスメイトの一員としてのカズキくん」と見ていたのだなということが、曽我部先生の語られるエピソードから知ることができました。
今回、インクルーシブ教育に興味を持ち、将来教師を目指す大学生のみなさんも参加してくださったのがとても嬉しく、曽我部先生も「日本の未来は明るい」と仰っていました。
平田さんが意思を貫き、まわりの人との関係を粘り強く築いていったこと、周りと人とカズキくんがそれによって少しずつ変化してきたこと、道徳の授業だけでは知り得ることができない、カズキくんを通して子供たちの心に育った思いやりやあたたかさ。
「平田さんにカズキをこの学級に入れてくれてありがとうという気持ちです」と語った曽我部先生の言葉に、私は胸が熱くなりました。

※このお話会はNPO法人SUPLIFEが大学生の学校ボランティアさん向けに企画したものでした。

曽我部先生、平田カズキくんが出演している報道特集はこちら

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